市民参加型ワークショップ「新しい医療と、くらし 〜再生医療のあるべき未来像〜」を開催しました

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2019年7月13日(土)に、UMEDAI 大阪・梅田会議室において、市民参加型ワークショップ「新しい医療と、くらし 〜再生医療のあるべき未来像〜」を開催しました。

この日の参加者は20人。10代〜80代まで、幅広い年代の方にご参加いただきました。1グループ、3~5人の参加者と1~2人のグループファシリテータで議論を進めました。グループファシリテータは、大阪大学COデザインセンターが提供する授業「科学技術コミュニケーション入門A」(https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/co/2019/000681.php)の履修学生などがつとめました。

全体進行の八木絵香(大阪大学COデザインセンター 准教授)より、ワークショップの趣旨やこの日の進め方を説明したのちに、さっそくグループでの対話を始めました。対話の場面では、今回のために開発した対話ツールを使います。

まずは「再生医療ときいて、パッと思いついたコトは?」とかかれたワークシートを使いながら、グループ内での自己紹介を行いました。

徐々に対話の本題に入ります。まずは「再生医療に期待すること、不安なことは?」という問いを皆で考えます。あるグループではこんなやりとりがありました。
「移植しかないと言われていた人にとっては選択肢が広がるのでは?」
「臓器移植のための闇の臓器売買などを減らせるかもしれない」
「その技術をもっているかどうかで国の価値が高まる可能性もあるし、その反面、競争や格差が激しくなってあらたな闇の商売につながることになってしまうのかも??」
このように一つの話題からさまざまな方向に議論がひろがっていきます。

多様な観点が出てきたところで、一度、グループファシリテータがここまでの議論の内容をまとめて発表し、会場全体で共有しました。「軟骨を再生してほしい」「老化を防ぎたい」という期待がある一方で、「副作用がないのかが気になる」など不安を感じる意見も出ていました。他にも「費用の面で、保険適用はどうなるのか、格差ができてしまうのでは?」「からだの一部を再生医療で補完する、というのは受け入れられるような気もするけど、その部分が増えたらどうだろう?」「再生医療を本当に受けたいかどうか、また、どこまで回復したいのか、などを患者は考えられるのだろうか?」など、さまざまな意見が紹介されました。議論の途中には、さまざまな疑問も出てきていたので、ここからの時間は、この日お招きした2人の専門家からコメントをいただくことにしました。

八代嘉美さん(神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センター 教授)からは、主に、再生医療が現在どこまで進んでいるのか、現状ではどういったところに限界があるのか、ということについて紹介していただきました。例えば、「『再生医療』と聞くと、iPS細胞をつかったものを想像するかもしれないけれど、まだまだ研究段階。安全性や有用性をこれから確かめようとしている段階のものもあるけれど、臨床現場に出てくるまでには5-10年は確実にかかる。」というお話や、「移植の代替にならないか、という意見も出ていたけれど、立体の臓器を人工的につくることができるようになるまでにはまだまだいくつものハードルがある。」ことなどが紹介されました。

標葉隆馬さん(成城大学文芸学部 准教授)からは、「どこかのグループの議論で『闇の医療」というキーワードが出てきたが、実際に、安全性が承認されていないような治療を他国に行って受けてくるという『幹細胞ツーリズム』が問題視はされている。国際幹細胞学会なども懸念を示していて、指針なども公表されている。」という説明や再生医療に関する研究の領域でよく議論されるキメラ動物(動物とヒトの細胞が混ざった動物)を使った研究についての補足説明などをしていただきました。

後半は、前半の議論や専門家から得た情報などを踏まえつつ、「再生医療を進めるにあたり何を大切にすればよいでしょう?」という問いについてグループごとに考えました。「情報格差が生じないように再生医療についての教育が必要なのでは?」「国の医療費がますます増えるのでは?」「生きる、死ぬ権利ということについて根本的に議論が必要になってくるのでは?」「研究者が暴走しないように歯止めが必要では?」など、さまざまな声が聞こえてきます。

後半の議論も、グループで話し合った内容を全体で共有しました。議論の内容や疑問点などを踏まえ、専門家のお二人からのコメントがありました。「日本の医療の状況として、安全性を担保するために日本再生医療学会による認定医制度が設けられていること」や「再生医療に関する「患者相談窓口」(https://nc.jsrm.jp/ppi/consultation/)や情報発信のための「再生医療ポータル」(https://saiseiiryo.jp)が作られていること」などが紹介されました。また、「再生医療がどうあるべきかということを考えようと思うと、それは医療だけではなく社会全体のしくみ(社会、経済、福祉など)とセットで考えなければならないはずである」、「老いとは何かという問いについても、今までとは異なるビジョンが必要になってくるのかもしれない」といったお話がありました。

参加者のみなさんには最後に、ワークショップでの議論の内容を踏まえて、一言ずつ寄せていただきました。そこには、「医療の選択肢を広げるためにも研究は早く進めて欲しいし、価格も下がって欲しい。」「医学・技術は進歩し続けるでしょう。好き嫌い、良い悪いに関わらず。で、あれば、これからの人たちに益となるものであって欲しい。」「アクセルとブレーキは適切に使って欲しい。」というようなコメントが並んでいました。

http://stips.jp/20191015/より転載)

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